11年前に完成した「囲い庭に埋もれる平屋」を再度取材してもらいました。
いろいろと感慨深い取材でしたが、先ずは、表紙の写真が素晴らしい!
11年前にはまだまだ小さかった欅の木が、結構な大木に成長しています。
11年経った施主の想いに触れて、改めて、設計の難しさを思い知りました。
私としても思うところがかなり大きかったので、ここに寄稿した文章を転載させてもらいます。
周辺は古い住宅地。隣にはIさんの実家があり、昔から知る近隣住民とほどよい距離感とプライバシーを保てる静かな生活の場を希望されました。 そこで外壁を兼ねたシンプルな白い塀のなかに、路地の延長を意識した黒いトンネル状の「エントランススペース」、庭を楽しめる半地下の「居室スペ ース」、家の中央に集約した「収納コア」という3つのパートをデザインしました。11年を経てアイレベルにある庭の樹木は大きく生長し、密かに期待した 「箱庭や盆栽の中に住んでいるような生活」が実現しているようでした。
実は取材前までは漠然と、11年後の住まわれ方を見るだけの企画だと思っていました。しかしご夫妻へのインタビューが進むにつれ、1つの住宅を介して、家族の生活や生き方についてのストーリーをなぞっていることに気づきました。Iさんは息子さんが個室が欲しいというと、「大学に合格して早く出ていけ」とだけ答えるそうです。でもそこにはIさん自身の経験から来る 「家に縛られないでほしい」という子への願いがあり、今は半年後に再び訪れる「夫婦2人の生活」を模索しています。
「この家は、家族の関係をぐっと近づけてくれる」というIさんの言葉や、大きくて太いご家族の人生への想いに触れ、「私たち建築家の仕事は、こういう生活の小さな一部分となれたときに素晴らしく輝くのだ」と実感し、途中で少し言葉が出なくなりました。
(文/手島 浩之)
地域限定の雑誌ですが、コンビニにも置いてあるようなので、手に取ってみてください。